小さな「できた」を重ねて。ある親子と訪問看護師の3年間【前編】
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〜退院後の不安から、食べる喜びへ〜
「この子のケアを、自宅でちゃんとできるだろうか。」
病院から自宅へ戻ることは、ご家族にとって喜ばしい出来事です。
しかし、医療的ケアが必要なお子様の場合、退院は新しい生活のスタートであると同時に、ご家族が大きな不安と向き合う瞬間でもあります。
今回は、心室中隔欠損症や左眼の眼瞼下垂など、複数の疾患があるお子様と、そのご家族を約3年間支えてきたNewGate訪問看護ステーションのエピソードをご紹介します。
最初は経鼻胃管の管理に不安を抱えていたお母様。
そこから、お子様の成長とともに、親子が少しずつ「できること」を増やしていった日々を振り返ります。
※本記事に掲載しているお子様のお写真は、保護者様より掲載の許可をいただいたうえで使用しております。

退院後の生活を支えるために
生後間もない頃から医療的な管理が必要だったお子様は、出生時の体重が小さく、哺乳不良や体重増加不良がみられました。
そのため、鼻から胃へチューブを通して栄養を補う「経鼻胃管」による栄養管理が行われていました。
NewGateが関わることになったきっかけは、退院後の医療的ケアに対するお母様の不安でした。
病院では経鼻胃管の管理方法や手技について説明を受けていましたが、自宅で一人で対応できるほど十分に習得できているわけではありませんでした。
お父様は仕事で日中不在になることが多く、お母様が中心となってお子様のケアを担う生活。
「もしチューブが抜けてしまったら、どうしたらいいのだろう。」
そんな状況を心配した病院のソーシャルワーカーから紹介を受け、訪問看護が始まりました。
育児経験があっても、医療的ケアは初めて
お母様には、上のお子様を育ててきた経験がありました。
授乳や沐浴など、一般的な育児については経験がありましたが、今回のお子様には、これまでとは異なる難しさがありました。
口から十分にミルクを飲むことができない。
体重が思うように増えない。
鼻から入っているチューブを管理しなければならない。
育児経験があるからこそ、以前との違いに戸惑う場面も多かったといいます。
訪問看護師が最初に取り組んだのは、経鼻胃管の管理方法をお母様と一緒に確認することでした。
チューブの固定方法や栄養の注入方法、必要な物品の準備。
自宅には確認に必要な聴診器もなかったため、一緒に選んで購入するところから支援を始めました。
病院で説明を受けたからといって、自宅ですぐに実践できるとは限りません。
大切なのは、説明を終えることではなく、ご家族が安心して実践できるようになること。
NewGateの看護師たちは、お母様の理解度や不安に合わせて、一つひとつ確認しながら支援を進めていきました。
訪問時間のほとんどが、相談になることも
訪問を開始した当初、お母様の不安は非常に強いものでした。
1時間の訪問のうち、50分ほどが相談や質問になることもあったといいます。
「こんなときはどうしたらいいですか?」
「チューブが抜けたら、どう対応すればいいですか?」
お母様にとって、日々の生活には分からないことがたくさんありました。
看護師たちは、手技の指導だけでなく、お母様の話を丁寧に聞くことも大切にしました。
最初は、経鼻胃管の挿入をお母様自身が行うことにも強い不安がありました。
そのため、まずは看護師が実施し、少しずつお母様にも経験していただく形で進めました。
必要なときには、看護師が固定などをサポートしながら、お母様が手技を行えるようにしていきました。
すぐにできるようになることを求めるのではなく、お母様のペースに合わせて、少しずつ自信をつけてもらう。
その積み重ねが、在宅での生活を支える大切な土台になっていきました。
「どうすれば吐かずに栄養をとれるのか」
経鼻胃管の管理と並行して、大きな課題となっていたのが、嘔吐と体重増加不良でした。
栄養を注入しても吐いてしまうことが多く、思うように体重が増えない状況が続いていました。
そこで看護師たちは、お母様と相談しながら、栄養を注入する量や時間、回数などを調整していきました。
1回の量を少なくして、こまめに注入する。
注入する時間帯を変えてみる。
お子様の生活リズムに合わせて、無理のないスケジュールを考える。
試行錯誤を重ねる中で、次第にお子様に合った栄養管理の方法が見えてきました。
そのスケジュールに変えてからは、嘔吐が減り、体重も少しずつ増加するようになったといいます。
教科書どおりの方法を当てはめるのではなく、その子の生活や反応に合わせて考える。
これも、日々の暮らしに関わる訪問看護だからこそ大切にできる視点です。
次の挑戦は「口から食べること」
栄養管理が安定し、体重も増え始めた頃、新しい目標が生まれました。
それが、口から食事をとることです。
飲み込みに大きな問題はないと判断され、離乳食への挑戦が始まりました。
しかし、最初から順調だったわけではありません。
食べ物を口に入れても吐き出してしまい、なかなか食事が進みませんでした。
そこで看護師たちは、お母様と一緒に、さまざまな食材や食べ方を試していきました。
例えば、魚や納豆などの食材を、そのまま食べることが難しい場合には、パウダー状の食品をおかゆなどに混ぜ、少しずつ味に慣れてもらう方法を取り入れました。
まずは味に慣れるところから始める。
食べられるようになったら、少しずつ食材の種類を増やしていく。
そうした工夫を続けるうちに、少しずつ食事が進むようになりました。
やがて、口からとれる食事の量が増え、経鼻胃管を外すことができたのです。
長い間、栄養管理のために必要だったチューブ。
そのチューブがなくなったことは、お子様にとっても、ご家族にとっても、大きな節目となりました。
一つの目標を越えると、また次の目標が見えてくる
経鼻胃管から卒業できたことは、大きな前進でした。
しかし、お子様には、まだ乗り越えるべき医療的な課題が残っていました。
心室中隔欠損症の手術。
そして、左眼の眼瞼下垂に対する手術です。
お子様の成長に合わせて、必要な治療を一つずつ進めていくことになりました。
その過程でも、看護師たちはお母様と一緒に、次の目標を確認しながら支援を続けていきます。
大きな目標だけを見るのではなく、目の前にある小さな目標を一つずつ達成していくこと。
その積み重ねが、親子の未来を少しずつ変えていきました。

後編では、心臓と眼瞼下垂の手術を乗り越えるまでの支援や、お母様の不安を軽減するために取り入れた「プレパレーション」、そして訪問看護の卒業に至るまでをご紹介します。
次回予告|後編
小さな「できた」を重ねて。ある親子と訪問看護師の3年間【後編】
〜手術を乗り越え、訪問看護を卒業するまで〜
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